第79回 陽子線による早期乳がん術後照射
投稿日:2020年11月7日
第49回のブログに「がん治療の選択」について書きました。
「がん治療は最初の治療が大切です。良く考えましょう!」ということを強調しました。
しかし治療を受けるためには、治療費がかかります。
今回は、現在の日本のがん治療を費用面から考察してみます。
(1) 保険診療
保険診療とは、公的医療保険に加入している人が医療機関で受ける「公的医療制度の対象となる診療」のことをいいます。
日本ではすべての国民がこの公的医療保険に加入することになっており、国民皆保険制度と呼ばれます。
現役世代であれば、医療費は3割の自己負担です。
(2) 自由診療
自由診療は、公的医療保険の対象とならない診療です。
治療費の全てが自己負担(10割負担)となります。
(3) 先進医療
先進医療の場合、公的医療保険と共通する診察・検査・投薬・入院等の部分は公的医療保険が適用されますが、先進医療に該当する部分は全額自己負担です。
将来的に公的医療保険導入が期待される厚生労働大臣が承認した医療技術です。
海外に住む外国人が、日本で陽子線治療を受ける場合、全て自由診療になります。
日本の公的医療保険に加入されていないので当然ですね。
公的医療保険で陽子線治療を受けることができるものに骨軟部腫瘍や前立腺がん、頭頸部悪性腫瘍、小児腫瘍などがあります。
私が相談を受けた場合、これらが公的医療保険で治療できることを説明すると、患者さんは安心して陽子線治療を選択されます。
肝がんや肺がんなどの先進医療でできる陽子線治療の場合、民間会社の保険に入っているかを伺い、先進医療特約などの保険に入っていれば費用面で心配ないことを説明します。
そうすると、多くの患者さんは、陽子線治療を選択されます。
民間会社の保険に入っていない患者さんには、従来のX線治療と陽子線治療の違いを丁寧に説明します。
治療を受けるとなると自己負担金は大きな額となりますが、それでも「自分の病気だから」と陽子線治療を選択される方も数多くいます。
乳がん治療の場合、早期のがんであっても手術を拒む患者さんがいます。
女性のシンボルでもある乳房にメスを入れることが受け入れられない心理は理解ができますが、乳がん専門外科医にとっては悩みの種となっています。
その事実を知り、メディポリス国際陽子線治療センターでは、2011年開設時から、九州の乳がん専門外科医との共同研究を進めてきました。
その結果、陽子線治療で治せる早期乳がん患者さんを経験しました。
それから早期乳がん患者さんに対して、自由診療としての陽子線治療を始めました。
最近では、その研究成果を術後照射にも応用しています。
早期乳がんは、腫瘍の摘出後に術後照射をするのが標準治療として確立されています。
X線治療の術後照射は、標準化しており、全国どこでも同じように受けることができますが、X線の特徴で肺の一部や心臓の一部に余分なX線が照射されてしまいます。
乳がん治療に対しての陽子線治療の研究結果より、陽子線治療では、肺・心臓への影響が無いことがわかっています。
この技術を早期乳がんの術後照射に応用することは、患者さんたちへのメリットが大きいと考えて、メディポリスでは「陽子線による乳がん術後照射」を自由診療で行っています。
今後、求める患者数が増えれば、他施設にも勧めるつもりです。
そうなれば、この技術は先進医療での治療として認められるのではないかと考えています。
最終的には、保険診療で提供したいと願っていますが、まず自由診療での実績つくりをしていきます。